相続には、色々な疑問、問題点がつきものです。こちらではその代表的なものについて、ご紹介しましょう。
◎相続放棄の撤回
質問 『同居していた父が亡くなり、遺産分けをしなければならなくなりました。私には妹が一人いますが、遠方に嫁いだ後は滅多に帰ってきません。父の葬儀のため帰郷した際に遺産分けの話をしたところ、妹は「相続は放棄するから」と言って自宅に帰っていきました。私は「(妹は)遺産を一切相続しない」という意思だと考え、その旨の遺産分割協議書を作成し、署名捺印を頼んだところ、「すでに相続を放棄したんだから(署名捺印)しない」と言われてしまいました。このままだと父の遺産は宙に浮いたままです。他に相続人はいません。どうすればいいのでしょうか?』
妹さんが「相続を放棄する」と言ったことに対して、ご相談者が「遺産は要らない」のだと解釈し、すべての遺産を相談者自身が相続する旨の協議書を作成したところ、妹さんが署名捺印してくれないため、遺産分割ができないというご相談です。
いまひとつ妹さんの本心がよくわからないのですが、このケースのポイントは、
①相続放棄は当事者の間で、口頭でできるのか?
②協力してくれない相続人を無視して遺産分割協議ができるのか?
というところでしょう。
まず①「相続放棄は当事者の間で、口頭でできるのか?」についてです。まず「放棄」という意味が問題です。
俗に「相続放棄」という言葉のみがよく知られているため、「遺産は要らないから相続を放棄する」と他の相続人に伝えればすべて済むと勘違いしておられる方が多いようです。
民法で定められている「相続放棄」には条件があります。相続開始から3か月以内に、家庭裁判所において相続放棄することを申述(申し述べること)しなければなりません。なお相続放棄は一度手続をしてしまうともう相続人には戻れません。
それに対して、遺産分割協議書の中で、他の相続人が遺産を相続する旨を記載することにより「反射的に」相続を事実上放棄したことにはなりますが、相続を放棄しようとする相続人も含めて署名捺印が必要です(なお、この場合「遺留分」が発生します。遺留分についてはまたの機会があればお話しします)。
今回のご相談の場合、妹さんが遺産分割協議書に署名捺印するか、あるいは相続放棄には家庭裁判所で申述するようお願いするか、どちらかの方法によらなければ解決できません。
次に②「協力してくれない相続人を無視して遺産分割協議ができるのか?」ですが、結論としてはできません。ただし、協議に協力してくれない相続人がいる場合の法的手段として「家事(遺産分割)調停」を申し立てる方法があります。調停の申立はご相談者自身でももちろん可能ですが、ご自身では不安な方は弁護士に一度ご相談されるといいでしょう。
それにしても、そもそもなぜご相談者の妹さんは相続放棄すると言っていながら署名捺印してくれないのでしょうか?もしかすると、ご相談者と妹さんの話し合いが不足しているため、本心が聞けていないまま早合点しているのかもしれません。今一度よく話し合い、当事者同士で円満な遺産分割ができないかどうか、よくご検討いただきたいと思います。
◎遺骨・香典・位牌・墓地の帰属
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神山和幸行政書士事務所(073-460-5478)
和歌山県和歌山市
相続・遺言・成年後見